現金や預貯金は額面の100%が課税対象となるのに対し、不動産の相続税評価額は路線価や固定資産税評価額を基準に算出されます。路線価や固定資産税評価額は時価の80%程度で設定されるため、現金を不動産に換えておいたほうが相続税を圧縮できるというのが一般的な考え方です。
しかしながら、不動産を所有すると維持管理に費用や手間がかかり、使用していなくても固定資産税を支払い続けなくてはなりません。加えて不動産を相続する子どもや親族などの相続人が相続税を納める必要があるため、相続人の負担を減らすことを主な目的として資産整理を行うケースが多いようです。
相続対策による資産整理には、次のようなメリットがあります。
- ● 不動産を手放すことで、維持費(固定資産税やメンテナンス費用など)が不要になる
- ● 現金で公平に分割することが可能
● 遺産分割の手間を軽減し、無意味なトラブルを避けられる
不動産のような実物資産は、ケーキを切るように簡単に分けることはできません。複数の相続人がいる場合は、現金化して分けるのが最も公平かつスマートといえるでしょう。相続手続きの負担を減らすという意味では、ご自宅を売却して介護施設の入所費用に充てるという選択肢も一つの相続対策といえます。
一方で、次のようなデメリットがあることも押さえておいてください。
- ● 売却に手間がかかり、手元に現金が入るまで時間がかかる
● 仲介手数料など売却時に費用がかかる
● ご自宅を売却する場合、転居先が必要
売却には時間がかかり、諸費用が発生することを見据え、手元の資金に余裕があるうちに早い段階から資産整理を始めることが大切です。ご自宅を売却する場合、新居探しや引越しに労力と費用もかかるため、ご家族と相談しながら計画的に準備を進めるようにしましょう。
相続対策の資産整理が向いているケース
- ● 複数の不動産を所有している
● 空き家など放置されたまま維持費がかかっている不動産がある
● 相続人に不動産を維持管理する負担を残したくない
● 相続人の間でトラブルが発生するのを避けたい
● なるべく相続手続きの手間や負担がかからないようにしておきたい
● ご自身がご病気を患っている
収益性の低い収益物件は早めに整理しておいたほうがよいでしょう。子どもたちにそれぞれ持ち家があり、将来的にご自宅が空き家になってしまう可能性がある場合も、元気なうちに資産整理を考えておくことをおすすめします。
債務整理
借金問題を解決するための債務整理にあたって、所有する不動産を売却することがあります。不動産を売却し、売却代金を借金返済にあてるという方法です。住宅ローンやアパートローンの返済に行き詰まったケースでは、「競売」あるいは「任意売却」で売却することになります。 任意売却は競売と異なり、途中から一般的な売却方法と同じような流れで進み、通常の相場とほぼ同じ価格で売却できる点が大きな特徴です。 一方、競売となると市場価格の60~80%程度の売却価格となってしまいます。任意売却は競売よりもメリットが多いため、ローン滞納が原因で債務整理する場合は任意売却できるうちに売却するようにしましょう。ただし、競売や任意売却をする前に、一般的な売却により改善できるように努めることを推奨します。
債務整理による主なメリットは以下のとおりです。
【競売のメリット】
- ● 裁判所によって手続きが進められるので、売却に向けて自ら動くことがない
【任意売却のメリット】
- ● 市場価格に近い価格での売却が可能
● 公告されないので、周囲に債務整理目的の売却であることを知られずにすむ
● 残債の分割返済が認められる
● 売却時の諸費用や引越し費用などを売却代金から捻出できる(費用負担がない)
● 引渡しの時期を相談で決められる
債務整理を行えば負債が大きく減らせるので、経済的・精神的負担はグッと軽くなるでしょう。特に競売と比較すると『任意売却』はメリットが大きいため、知識として押さえておくと万が一のときに役立ちます。
次のようなデメリットがあることも押さえておいてください。
【競売のデメリット】
- ● 売却価格が安く、ローンを完済できない可能性がある
● 残債は一括返済しなくてはならない
● 公告によって競売物件であることが周囲に知られやすい
● 裁判所の命令に従わなくてはならず、引渡し日を選べない
● 引越し費用などは自分で用意する必要がある
【任意売却のデメリット】
- ● 入札開始後の任意売却は認められない
● 売却期間の決定権が債権者にあるため、スケジュールがタイトになりがち
債務整理を行っても、まだ残債がある場合、自己破産になる可能性があります。特に残債を一括返済しなくてはならない競売は、自己破産の可能性が高いといえるでしょう。自己破産すればすべての借金はゼロになりますが、財産のほとんどを処分しなくてはなりません。
また、数年間は新しいローンが組めず、生活に一定の不便が生じます。任意売却は残債の分割返済が認められているうえに、月々の返済額も無理のない範囲で決められます。住宅ローンの返済がいよいよ難しいとなったときは、早めに金融機関か任意売却専門の不動産会社に相談するのが得策です。 【債務整理の資産整理が向いているケース】
- ● 住宅ローンやアパートローンの返済が厳しい
● 借金を清算してスッキリしたい
● 早急にまとまった現金が必要だが、資金的に余裕がない
● 事業危機などにより資金を工面したい
「かろうじてローン返済は続けているものの、貯蓄をする余裕はない」といった状況下で、まとまった現金が必要になることもあるでしょう。例えば、相続税の支払い、ご家族の入院・手術、介護施設への入所、海外留学などで現金が必要になる事もあります。売却益が出る場合は現金の補填をすることができます。
新規に借入をするという手もありますが、さらに返済負担が大きくなってしまうため、目的や出口戦略によっては資産整理をおすすめします。ローン滞納が始まっていない時点では通常売却になるので、売却代金でローンを完済でき、かつ必要な現金が手元に残るかを確認する必要があります。
投資
投資目的の資産整理は、主に『売却益を得る』ことと『運用状況の把握』を目的に行われます。不動産の購入代金よりも高額で売却できれば、その差額が利益になります。不動産価格が高騰しているときにタイミングよく売却できれば、大きな利益を得ることも夢ではありません。
少しでも高く売却できるベストタイミングを逃さないよう、日頃から景気の動向をチェックしたり情報を集めて、適正な判断が下せる状態を維持しておくことが大切です。
不動産投資の戦略として、売却益が出なくても資産整理を行うケースもあります。例えば、物件を売却して収益性の高い物件に再投資するのは、ポートフォリオのバランスを調整したりリスク分散したりするのに効果的です。
また、収益物件を保有されている場合は適切な運用がされているか確認する必要もあります。一般的には満室経営で適切なメンテナンスが適宜されていれば、大きな問題は起こりにくいでしょう。ただし、サブリース契約を締結して運用実態やメンテナンス状況を把握されていない場合は注意が必要です。
一定の賃料が入るサブリース契約ですが、空室が多い状態の場合、将来的な賃料収入の見直しや大きな修繕費用を求められる場合もあります。適切に収益が得られるかどうかの見直しは、健全な賃貸経営を目指す方が多く対応しております。賃貸経営で問題があれば、早期に対応して改善するようにしましょう。 投資目的で資産整理する際は、不動産購入時に計画していた出口戦略と現状に乖離がないかも確認しておきましょう。
投資における資産整理では、主に次のようなメリットが考えられます。
【投資用資産整理のメリット】
- ● 売却益を得られる
● 現金化してポートフォリオを自由に組み替えられる
● 別の物件に再投資するなどして不動産投資の事業規模を拡大できる
不動産投資の特徴といえば、レバレッジ効果が高いことが挙げられます。レバレッジ効果とは、少ない資金で大きな収益が期待できることをいいます。不動産投資におけるレバレッジ効果とは、「小額の自己資金で大きな収益を得る」ことで、金融機関からの融資を受けることにより、自分の資金だけでは実現不可能な投資効果が期待できることにあります。
金融機関の融資に限らず、物件を担保にした追加融資の活用や、物件の売却代金を元手にして投資規模を拡大していく投資スタイルが一般的です。
ワンルームマンション1戸から区分マンションを複数戸の所有へ、複数の区分マンションから1棟アパートへ、1棟アパートの複数所有や1棟マンションの保有など、不動産投資の目的や現状を加味した出口戦略と照らし合わせ、計画的に資産を増やしていくことができます。
次のようなデメリットがあることも押さえておいてください。
【投資用資産整理のデメリット】
- ● 必ずしも売却益を得られるわけではない
● 売却益には譲渡所得税が発生する
● 売却時に仲介手数料や登記費用などがかかる
● 物件の状態や売却のタイミングなどによっては売却できない可能性がある
基本的に建物は築年数とともに資産価値は減少します。また、保有物件のエリアにより、売却益を必ず得られるとはかぎりません。売却のベストタイミングを逃さないためには、景気をチェックしたり近隣相場の情報を集めたりなど地道な努力が必要です。少しでも有利に売却するには、不動産取引の基本も学んでおくと安心でしょう。
【投資目的の資産整理に向いているケース】
- ● 都市部など需要があり、価値が上がっている地域の物件を所有している
● 不動産投資ビジネスを拡大したい
● ローンの元利返済額が減価償却を上回る状態『デッドクロス』になりそう
● 投資事業を継承する相続人がいない
賃貸需要の高い地域にある物件は、価格が下がりにくい傾向にあります。購入希望者も見つかりやすく、比較的有利な条件での売却が期待できるでしょう。不動産投資の目的にもよりますが、デッドクロスになると所得税の節税効果が低くなるため、追加購入や売却を検討してもよいかもしれません。
なお、配偶者や子どもに賃貸経営(投資事業)を継承する意思がないのであれば、事前に整理しておくと、無駄な争いの原因もなくなり相続時の負担軽減につながります。
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資産整理をするタイミングと注意点
ここからは、不動産の資産整理を進める方法を具体的に解説していきます。資産整理の目的には、主に「相続」「債務整理」「投資」の3種類があることをお伝えしました。目的によって進め方や方法に異なる点があるため、どのようなタイミングで、何に注意を払い資産整理をするのか参考にしてください。
不動産会社に依頼して売却する時
まずは不動産会社に相談するところから始めましょう。ポイントは目的に応じた専門性の高い会社を選ぶことです。一般的な方法で不動産を売却するなら、不動産会社に仲介を依頼して売却することになります。
仲介での売却は実際に売れるまで、一般的な居住用の住宅は早くて3ヶ月ほどかかり、購入希望者が見つからなければ半年以上かかることも珍しくありません。早く現金化したい場合は、仲介だけでなく買取も視野に入れておくとよいでしょう。買取は不動産会社が買主となるため、条件面で合意できれば1ヶ月程度で現金化できます。
ただし、買取価格の相場は市場の7割程度と安くなってしまうケースが多いため、少しでも高く売却したい場合は一定期間仲介による売却活動を行い、売却に至らなかった際に買取に切り替える「買取保証」を採用している不動産会社を選ぶとよいでしょう。
そのほか、任意売却を希望する場合や収益物件を売却する場合は、一般的な不動産売却とは違うノウハウが必要です。それぞれ専門に取り扱う不動産会社を選ばれるとよいでしょう。 弁護士などに相談する時
不動産の売却業務に直接関わるのは不動産会社ですが、相続や税金面の不安がある場合は弁護士・税理士・司法書士などの専門家に相談することから始めましょう。3,000万円特別控除や買い替え特例、短期・長期譲渡など、活用する法律や制度を間違えると税金対策が無意味なものになってしまうこともあります。 法改正により条件が変わる制度も存在するため、要件に適用する制度を選択するために、法律や税金のプロフェッショナルに相談・確認しておいたほうが無難です。
また、ローンを滞納して任意売却となる場合、債権者である金融機関に交渉して同意を得る必要があります。明渡しの時期や引越し費用を出してもらえるかどうかも交渉次第です。よい条件を引き出すためにも、専門家の知恵を借りるようにしてください。 ただし、不動産取引に精通しているパートナーに相談しましょう。特に賃貸経営の流れを網羅して俯瞰的な視点でアドバイスをしてくれる方は多くないため、注意が必要です。
財産目録を作成する時
資産をリスト化することは現状把握や相続対策に役立つため、情報を整理して「財産目録」を作成しましょう。目録といっても決まった形式はなく、手書きでもパソコンで作成しても構いません。次のようにプラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)をすべて書き出します。
【プラスの財産(資産)】
- ● 現金、預貯金
● 有価証券:株式、債券、小切手など
● 不動産:ご自宅、収益用物件、店舗や事務所など事業用物件、山林、畑など
● 動産:自動車、オートバイ、貴金属、美術品など
● その他:損害賠償請求権、慰謝料請求権、ゴルフ会員権など
【マイナスの財産(負債)】
- ● 返済中の各種ローン:住宅ローン、アパートローン、自動車ローンなど
● 借金
● その他:未払いの各種税金や医療費など
財産目録には不動産の「所在地」「面積」「評価額」など、財産の内容も記載しておきましょう。売買契約書や登記簿謄本など財産に関する資料の保管場所も記載し、資料はひとまとめにして保管すると便利です。 財産目録を作成しておくことで相続が発生した際にも家族の負担を減らせるため、特に複数の不動産を所有している場合や、不動産投資・賃貸経営をしている場合は作成することをおすすめします。
不動産の資産整理で注意するポイント
資産整理にはさまざまなメリットがあることがわかりましたが、納得のいく資産整理を行うためには押さえておきたいポイントがあります。不動産を売却するにあたって、資産整理の目的を明確にすることや、相談するパートナーになる業者選びが重要なポイントです。以下では2つの注意点についてご説明していきます。
目的を明確にする
「資産整理をする目的」の段落で解説したとおり、目的によって資産整理の方法やメリット・デメリットが異なります。間違った方法を選択すると損をしてしまう可能性があるので、注意してください。
相続で子どもたちに負担をかけたくないという目的は達成できるものの、その後の生活をしっかりシミュレーションしておく必要があります。 パートナーとなる業者選び
不動産取引全般にいえることですが、スムーズかつ納得のいく結果を得るには信頼できるパートナーを選ぶことが大切です。ここで注意すべきは、何かの専門家だからといってオーナー様の最適解を導くことができるわけではない事実にご留意ください。
早く現金化したい場合は買取対応のある不動産会社、債務整理したい場合は任意売却に特化した不動産会社、投資目的なら不動産投資会社や売買にも対応する賃貸管理会社といったように、目的ごとに実績豊富な業者が存在します。
特に売却に関わるパートナー選定は重要です。物件によっては諸条件をクリアしなければ販売できない場合や、近隣トラブルを抱えている場合は実務的な問題解決能力が求められます。
また、収益物件の場合は一般的な実需の物件より購入者層が少ないため、賃貸経営に強く、売却ネットワークを保有する企業を探す工夫も大切です。まずは実際に相談をしてみて、ご希望に沿ったサービスや売却方法を提案してもらえるかどうか確認してみましょう。